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「ポスト」 part4

  • 2010/02/11(木) 20:17:07

やっと締めることが出来ました……。

・とっても長いです。全体の半分くらいになりました。

・便宜的に分割して載せます。少しは読み易くなるかなと。

・その内HPの方にも載せると思います。

・Part1~3を一部修正しました









追記で本編です。読んでいただきありがとうございます。
































橙色に染まるこの緑の洋館は初めて見る。よく仕事と私情は分けないといけない、とか聞くが今正に禁忌を犯そうとしている。もう少しこの色彩を見ていたい、という言葉を盾に、暫くノックを躊躇っていた。今朝はどうしてあれほど義務感に駆られていたのだろうか。どうして躊躇無くノックできたのか。しかし……、見ていても仕方がないではないか、とようやく踏ん切りがついた。ゆっくり手を近付け、恐る恐るノックした。乾いた音が夕暮れに響き渡る―――、反応は無い。肩を落とす。
 「やっぱり、あなただったのね」という声が掛けられた。心臓がビクンと跳ねた。振り返ると、5メートルほど離れたところに、探していた人が居た。両手に買い物袋を持っている。「あなたから尋ねてくるなんて思わなかったわ」と鍵を取り出しながら側に来る。僕は二歩下がって道を空けた。「さぁ、上がっていくわよね?」
 中は、それこそ緑だった。床は木の茶色だが、壁や天井は緑。玄関を入ると長い廊下で、ところどころでは天窓から丁度こちら向きに夕日が差している。しみじみとした趣を感じるが、暗くはないような色。廊下はとても長い。突き当たりはそのままドアで、開けるとリビングとキッチンだった。





 「中々広いでしょ。」と、テーブルに荷物を置く。僕は一歩入った所に突っ立っている。リビングを見ただけでもここが広い家だとわかる。その北側に、カウンター式でキッチンが見える。「一人暮らしにはちょっと広すぎるくらいだわ。まぁ狭いより良いのだけど。前住んでた家はここの半分くらいかしら、マンションだったし。」
 “一人暮らし”という言葉に反応する僕。やはり新聞を取っていたのはこの人なのだ。改めてがっかりする。
 それにしても饒舌だと思った。
 「あら、ソファに掛けていいわよ。遠慮しないでね」
 「失礼します」驚く程の大きさのソファは、座ってみると僕の重みにゆっくり沈んでいき、心地良い柔らかさだった。ふわふわ。
 「凄く座り心地良いでしょ、そのソファ。」(僕は短い文の切れ目で頷いた。)「ここに前に住んでいた人が置いていってくれたの、他にもいろいろね。前に住んでた人って言っても知らない人じゃないわよ。私の叔父でね。」
 「叔父?」
 「そうよ。この家を建てたのもその人よ。好い緑よね。因みに南側にお庭もあるし、屋上も行けるわ。これが良い眺めでね、後で夕焼け見に行こう。そうしよう」
 思わず声が出ていたのだった。彼女はその後にも言葉を継いでいたが、半分は上の空でよく理解できなかったと思う。
 「あの」
 「何かしら?」
 「引越して来られたんですか?」
 「えぇ、まだ2週間と……8月20日だから、1日ね。」僕は二度と同じような過ちを犯さないように集中して考え直している、(つまり春にはその叔父さんが住んでいたのだろうか?)。「今お茶を淹れるけど、お菓子何が良いかしら?」と、唐突に思考が遮られた。
 「あ、えーと」
 彼女は戸棚を漁っている。「まだ引っ越してきて整理したばっかりなのだけれど……。あ、このクッキーはどうかしら。引越し祝いの頂き物だけれど、誰かとお茶する機会なんて中々無いだろうし。いいかしら?」
 「はい、では頂きます」多少当惑しながら答える。
 「いいお菓子みたいだから、期待しましょうね。これだけでも引越しする価値はあるってもんだわ。」





 そもそも、僕は何故この家に来たのだろう。僕にとって、この新聞配達の仕事で最も重要だったのは「緑の洋館」と「そこに住むお爺さん」だった。それはとても強い思い込みになっていたが、昨日打ち砕かれ、勝手に僕は傷付き、また彼女を戸惑わせてしまった。ここへ来ようと思った理由は、間違いなく謝罪のためだったはずだった。しかし、彼女は今日会った時の反応の様に、殆ど気にしていないらしい。寧ろ僕のことを気遣ってくれる。そして、僕はといえば―――もはやそんなことより、またもお爺さんのことが気になっている。彼女はここに来てまだ半月で、しかも持ち主は叔父、つまり年齢的にはお爺さんである。
 僕の半年近く続いていた直感は、正しかったのかもしれない。その可能性は高い。後は直接的に確認すれば……。いや、それよりもやはり謝らなければ。それならお茶を頂くなんて申し訳ないではないか。しかし、彼女は気にしていないみたいだし。どうすればいいのだろう。
 そんな思考を、その至って元気なお喋りおばさんは露ほども知らず、お茶を淹れる間にも絶え間なく話している。僕はその会話を聞きながらも、今述べたようなことを考えていたが、余計に混乱するのだった。
 「そうだ、先に聞きましょう。紅茶には砂糖を入れるかな?クッキーは甘そうな感じ」
 「それなら砂糖は要らないです」
 「私もそうしよう。因みに私は薄めの紅茶が好きなの。濃いと咽てしまいそうで。解るかしら、これ。イギリスの人は甘いケーキに濃くて甘ーい紅茶を合わせるらしいけれど、それじゃあ口がもたないよね。それと似てるのかな。いえ違うわね」
 「それは違うかもしれません。でもイギリス人って凄いですね」
 「そうよね。きっと辛いもの苦手なのよ、中国人とは合わなそう。日本人は昔から淡白な食事だから、きっと私は正しいのよ」と、少し誇らしげだ。「緑茶とかも好いわ。甘い和菓子のことも考えてある。高級なお茶は、全然渋味が無くてすっきりした味だけど、あれはちょっと渋いのが重要なのよ。さて、お茶が入ったわ。」
 紅茶は可愛らしいトレイに載せられ、可愛らしいティーカップに注がれている。クッキーは詰め合わせタイプで、10種類がぎっしり詰めてあり、見ただけで重量感が分かる。一人で食べていたら相当な労力が要るだろうと思った。
 彼女はトレイをテーブルに置いて言った。「さあどうぞ。好きなだけ食べて良いわよ。それと、昨日の事も、話してくれるわよね?」
 僕はカップを取りながらドキッとした。




 「すみませんでした、突然あのような態度を取ってしまって……」
 「いいのいいの、全然気にはしてないのよ!ただ、流石に気にならなくはないの。どうしてなのかよくわからなくて。そんなしんみりしなくて良いから、食べながらで良いから」
 気遣ってくれることに安心感と申し訳無さを募らせながら、一番小さな、真ん中にクランベリーのドライフルーツが乗ったクッキーに手を伸ばした。その瞬間、「あら」と一番大きなクッキーも渡されてしまった。
 「僕は、四月からこのバイトを始めて、この辺りに新聞を配っていたんです。」
 「朝早いし、大変でしょ。それに寒そう」
 「最初は大変でした。あまり寒くは無かったんですが、道と配る家を覚えるのが大変で。大学一年なんですけど、大学が遠いので時間も不安で。初日は後悔しましたよ」紅茶を啜る。甘いクッキーによく合っている。「そのルートの真ん中くらいにこの家を見つけて、ポストが無かったのでどうすれば良いかわからなくて」
 「それは大変ね。仕事場の先輩に聞いたりしたのかしら?」
 「怖くて出来なかったんですよ、初日からそんなこと」
 「失敗でも何でもないじゃない。ポストを付けなかった人が悪いんだわ」と、愉快そうに笑う。
 「でも仕事出来ないヤツって思われるんじゃないかと……それで、ドアの前に置いちゃったんです。だったら先輩に聞けばよかったですよね……」
 「あら、仕方ないわね」
 「そしたら翌日、ドアに貼り紙してあったんです。『ここに挟んでおいてください、お世話様です』って。」
 「流石叔父さん、優しいわねぇ」
 それとなく誘導した通りに、おばさんは受けてくれた。「やっぱり以前はその叔父さんが住んでらしたんですね」
 「えぇ、そうよ。確か、10年くらい前にこの家を建ててからずっと住んでいたわ」
 「やっぱりそうだったんですね。実は、ずっとこの家にはお爺さんが住んでいそうな気がしてて、……酷い思い込みですけど」
 「それ解るわ。家の雰囲気がそうなのよね」
 「それに貼り紙の字も凄い達者で威厳のあるような感じで。」ここで僕は興奮していたが急に恥ずかしさを思い出して、「それで、とても恥ずかしいんですが、昨日奥さんが出てこられて何だか凄くショックで……」
 「あら、そうだったの!」
 「本当に自分勝手ですみませんでした」と、頭を下げた。
 しかし、彼女はキョトンとしてから笑い出した。「確かに、社会人としては未熟ね。でもいいわ。これからも配達してちょうだいね。」と、クッキーを一つ選ぶ。
 「はい、頑張ります」
 「うふふ。ほら、食べて。じゃあ、叔父さんの話を少ししましょう」多分少しじゃなくなるだろうと思った。







 「是非聞きたいです」
 「そうね、何から話そうかしら。」(僕がクッキーを食べるのを忘れているのに気付いて、今度は二番目に大きいものが渡された)「まず叔父さんは高校教師でね、国語を教えてたわ。勿論もう大分前に定年退職したけどね。校長先生なんかにはならないでずっと担任とかやってたみたい。きっと教え子が千人とかいるんじゃないかな?叔父さんだったら絶対皆に慕われてたと思う。凄い優しくて、真面目で、でも結構お茶目な人だから。って私もあまり頻繁に会ってた訳じゃないけどね、ちっちゃい時は一番お年玉をいっぱいくれる親戚って覚えてたわ」と、微笑する。一息吐いてお茶を飲む。
 「あら、二杯目はいかが?きっと話長くなるわ」と言って注いでくれた。
 「ありがとうございます、いただきます。」
 「そういえば叔父さんは結婚しなかった。あんまり一人に偏る人じゃ無さそうだからかな。まぁ自分の叔父の恋愛なんて姪が把握できるわけないんだけどね。でもそんな感じ
  でも何でただの高校教師がこんなに広い家を建てられたかって言うと、うちの父と、兄弟で資金を出し合ったの。因みにうちの父が兄。二人兄弟。って言っても確か8:2くらいで叔父さんが殆ど出したわ。うちの父は結構エリートなサラリーマンだったから、もう40代には一軒建ててたの。で、今も両親はそこに住んでる。叔父さんは、働いてた頃はどうだったかわからないけど、退職して10年くらいしてから家を建てる計画を立てたのよ。面白い人よね」
 「そのお歳で実行するなんて凄いですね」
 「そうでしょ。不思議だわ、正直よくわからない」と笑う。「多分叔父さんは節約家だったんだと思うのよ。ローン無しで8割出せたんだもの。あまり目移りとか衝動買いとかしなそうだし、欲も無さそうだから。何で家を欲しがったかは別だけど。」
 「じゃあ、この家のデザインはご自身で?」
 「そうよ。親交のあった美術の先生にも協力してもらってたって。流石教師。家も面白いチョイスだわ。緑で、何故か平屋。しかも谷を選ぶんだからね。景色の良い丘にすれば良いのにと思っちゃうわ。でもここは絶妙。日の出も夕焼けもキレイなんだから」
 「良いですねー。計算づくだったんですかね」
 「それは本人に聞いてみないと解らないわ。でも、きっとお話みたいな家を作りたかったんだと思うの。国語の先生だもの」
 「なるほど、素敵ですね」
 「今日はもう暗くなっちゃったけど、また今度見にきたらいいよ。あ、まだ帰らなくて大丈夫?」
 「一人暮らしですから何時でも」





 「そう」と、自分と僕のクッキーを選ぶ。僕は紅茶を飲んだ。「国語の先生って凄いのよ。この家には図書室があるの。壁の一面がびっしり本棚で、びっしり本が詰まってる。最初びっくりしちゃった。ここに来た日に叔父さんに聞いたら、全部読んだ本らしいわ。多分あたしの百倍読んでると思う。面倒だからきっちり数えてないけど、千冊以上は確実にあるよ、アレは。後で見せてあげる
  そう、自分でも何冊か本を出してるらしくてね。本棚のどこかにあるらしいけど、どこにあるのか……探すの大変だからさー。SFとかミステリーが好きって言ってたから、そのどっちかの段にあるんじゃないかな、って思うのよね。因みに何で私がここに引っ越してきた理由、何だと思う?」
 「そうですね……奥さんは結婚なさってるんですか?」
 「お、いい質問ね。私は結婚して、子供も二人いるわ。一姫二太郎で。」
 「じゃあ、お子さんが二人ともご結婚されて、……?それだと旦那さんは……」
 「うふふ、まぁ、引っ越してきた理由は当たりね。娘が嫁に行ったから、一人暮らしになってね。で、ここに来たの。じゃあ、第二問。何で叔父さんはここに居ないと思う?あとうちの旦那も」
 「それは……。難しいです」
 「じゃあクッキー食べて」
 「それでも解んないですよ」と、僕は苦笑しながら受け取る。
 「正解はね、旅行に行っちゃったの。それも世界中を旅しに。」
 「それは凄い、思いつかないですよ」
 「叔父が、うちの娘の結婚式で、世界一周したいって言い出してね。そしたらうちの旦那まで賛同して。あ、因みに旦那は旅行会社に勤めてるんだけど、実際に観光して情報収集するからって言ったらそれで通じちゃってね。今もお給料貰ってるわ。うちの人も大胆だわ。
  叔父は、世界に行っていろんなことを経験して本を書くんだ、ってね。茶目っ気たっぷりだわ」
 「そんな事が出来る人、なかなか居ないですよ」
 「自慢の叔父だわ。ちょっと、いえ大分心配だけど。まぁうちの人が何とかしてくれるでしょ。いつ帰ってくるのかも解らない、ぶっつけ本番ツアーなんだけどね。因みに今は韓国にいるはず。来週辺りに中国だったかしらね
  大体叔父についてはこんな感じかしら。直接話すことが出来なくて残念だったわね。」





 「いつかお話したいです。あ、奥さんは何で日本に留まってるんですか?」
 「私は、待つ係で良いのよ。少しのんびりしたかったからかな。またとない機会なんでしょうけど、何故か気乗りしなくてね。行きたくなったら合流すれば良いんだし。それに、素敵な配達さんに会えたから後悔してないわ」
 「そんな」
 「引越して来てから、あの新聞受けに気付いて嬉しかったわ。昨日も言ったかしら、些細なことだけど、凄い丁寧にやってくれてて。あなた、もしかして一日からバイクにしたのかしら?」
 「ええ、そうですよ」
 「そのお陰で会えたんだわ、自転車だと音がしないからね。昨日は酷い格好で外に出ちゃったけど。」
 「だから八月中には会うことが無かったんですね。」
 「そう。実は一昨日もバイクの音で起きて、見に行ったの。でも、着替えてたら角を曲がるところしか見れなくて。だから昨日は作戦変更したの。あ、そういえばおでこ大丈夫?」
 「大丈夫です、結局冷やさなくてまだ青いですけど」




 二人の会話はまだ続きますが、僕の記憶が曖昧になってくるのでここらで切りましょう。
 この後、僕はおばさんが流石に夕飯を作らなくいけなくなるまで話をしていた。と言っても専ら聞き手だった。僕はクッキーをかなりの量食べたので、もう夕飯は要らなかった。彼女には誘われたが、お邪魔せずに帰ることにした。但し、今度夕焼けを見に来る約束をして。
 直接の親交はそう長く続かなかった。僕も彼女も別に構わなかったが、特に理由も無く緑の家に上がることは無くなった。初秋の庭を見たのが最後だ。
 しかし、彼女が僕を忘れていないことは解る。何故なら、依然として僕は、毎朝この家を訪れ、未だにあのドアノブに新聞を配達しているから。これからもポストが設置されることは無いだろう。

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この記事に対するコメント

社会に出てから(出てなくても)このようなであいがあると友達や家族とは別に心の休まる場所ができそうで
新聞配達はしたくありませんが

  • 投稿者: とば
  • 2010/02/13(土) 00:57:14
  • [編集]

>>とばさん
私もこんな経験をしてみたいです。勘違いはよくありませんけども

因みに私は起きられない性質なので新聞配達なんて無理です

  • 投稿者: 茶ー
  • 2010/02/16(火) 23:18:59
  • [編集]

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